なぜ今、30代以上の大人が海外で学び直しをするのか? 世界のリスキリング事情2025(留学体験記)
こんにちは。ヨリミルライターの菊池です。
先月、地中海に浮かぶ小さな島マルタ共和国へ短期留学へ行ってきました。
学校には、世界中から30代から60代の大人が、語学+ビジネスを学ぶため集まっていました。一方、日本の企業ではリスキリング促進が進む中30代以上の社会人を中心に、社内ではなく海外へ学びの場を求める人が増えているのだそう。
多彩な社会経験から得たものもあるのに、なぜ今、大人は学び直しをしたいのか。
本稿では、大人留学のトレンドをデータをたどりながら、現地で感じた「リスキリングの本質」について探りたいと思います。(2025年10月時点)
私が見た「旅するように」学び直しを選ぶ大人たち
イタリア半島の南、マルタの公用語は英語

物価高のヨーロッパでも、比較的に庶民的だといわれるマルタの物価は東京と同じくらいに感じました。(途中、高市トレードによる円安加速の影響でお財布の負担が!)

中世にタイムトリップしたような蜂蜜色の大理石で建てられた旧市街や、透明度が高すぎて船が浮かんでいるように見えるブルーラグーンなど、観光としても見どころが満載です。

さて、マルタの紹介はこれくらいにして本題に入ります。
1. 留学の動機は人生の数だけある
語学学校で私は「30代以上限定クラス」を選びました。理由は、若い頃の"最初の一歩"ではなく、人生の文脈を携えた人たちと落ち着いて学びたかったから。世界中の大学生であふれる夏を避け、秋を選んだのもそのためです。
私のクラスの人たちは、語学をもう一度学ぶことが、どこか神聖で、静かな決意に満ちているような印象を受けました。昇進後に英語でチームを率いるようになった人、海外案件が増えて交渉力を高めたい人、孫と自分の言葉で話したいと学び直しを決めた人......。10代・20代の「これから」と違い、彼らには「これまで」があります。
年齢を重ねるほど、学ぶ理由はパーソナルに
教室で出会ったクラスメイトの声を一部、紹介します。
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「娘の夫が英語圏。孫と自分の言葉で話したい」(オランダ/60代女性)
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「昇進して部下を英語でマネジメント。伝える力を磨きたい」(イタリア/40代女性)
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「海外対応が増え、英語で交渉する力が必要に」(ドイツ/40代男性)
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「キャリアチェンジを決意。自分の言葉で提案したい」(トルコ/30代男性)
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「旅好きの妻をサポートしたい。英語があれば世界は近い」(メキシコ/60代男性)
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「英語圏で新規ビジネスを立ち上げたい。その第一歩」(アルゼンチン/50代男性)

2. 数字で見る、大人留学の再燃
次に、世界のトレンドデータをみてみましょう。

3. 世界で広がる "リスキリング" の市場規模
世界の大人留学の市場は、2020年代後半にかけてさらに成長が見込まれる。
民間調査会社調査によると、グローバル成人教育市場規模は2024年時点で約4,152億ドル、2033年には約8,726億ドルと9年後2倍以上に達すると予測。
(出典:DataHorizzon Research「Adult Education Market Forecast 2024-2033」)
なかでも、欧州では成人教育の参加率が地域で平均約47%に達し、社会人のグローバル対応力を高める手段として注目されています。私も初めて知りましたが、こうした流れから「越境型リスキリング(海外×リスキリング)」という新しい学びのスタイルが世界的に広がっているのだそう。
たとえば、留学先で人気のイギリスやカナダ、マルタ共和国などでは、社会人向け短期語学×ビジネス研修プログラムが次々に拡充され、1〜3週間で完結する「マイクロ留学」への注目が高まっているという調査レポートもありました。
(出典:Eurostat 2022/Universities UK 2023)
何のために学ぶのか。日本は「仕事のため」、海外は「自分のため」
その問いに対して、日本では「昇進・資格維持」などスキルの習得が中心で、海外では「キャリア再設計・ライフデザイン」など視野の拡張が中心という傾向が見えてきました。
この差に関しては、国の文化による違いというよりは、社会環境や仕事への考え方が影響しているのではないかと読み取りました。
次に、日本の留学事情をみてみましょう。
4.日本の留学事情 アフターコロナの変化
コロナ後の留学再開から、社会人が20%後半→30%後半に上昇

(出典:JAOS 海外留学協議会の年次調査 ほか)
ここで、リクルートワークス研究所の「日本で働く社会人の学び直し白書2024」をみてみます。

「自分の仕事に必要なスキルが足りない」と感じる人の割合が、先進国平均のおよそ3倍にのぼり、特に「デジタル/ソフトウェアスキル(42%)」「チームワーク・リーダーシップ(40%)」が不足スキルとして多く挙げられています。
(出典:リクルートワークス研究所「社会人の学び直し白書2024」第3章 )
国も「個人の学び直し」をあとおし
日本政府のリスキリング支援制度があり、調べてみました。心強いですね!
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経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」
講座費用の補助など、キャリア相談→受講→転職支援まで一体で支援。 -
厚生労働省「教育訓練給付制度」
指定講座の受講費について、要件に応じて給付。
DXやデジタル分野を中心に、働きながら学び直す仕組みが整いつつあります。
(出典:各制度公式ページ)
5. 企業も"学びの投資"を加速
企業にとって「社員のスキルアップ」だけではなく「学びの舞台のアップデート」がますます意味を持ってきています。少し難しいですが、経営視点から紐解いてみます。

日本経団連の調査によると、企業の人的資本投資額はこの3年間で約2倍に増加という報告がありました。ここからも「学び」や「学び直し」は福利厚生ではなく、経営資源として新しいイノベーションの起点になるという流れが伺えます。
「労働人口不足」と「人的資本経営」が社会背景にある
この流れには、日本特有の2つの社会背景があります。
まず労働市場動向では、少子高齢化が急速に進む日本では2030年までに生産・事務職で過剰210万人、専門技術職で不足170万人という推計も出ており、人材の質・配置・能力転換が急務となっています。
(出典:World Economic Forum2023年)
人的資本経営の文脈で「越境リスキリング」が再評価

続いて、人的資本経営でも見直されています。
人的資本経営とは、人材を「資本」と見なし、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上を目指す手法ですが、従業員の知識やスキルや経験といった無形の資産への投資を行い、その投資を価値創造につなげていく制度として「越境リスキリング」が見直されています。
特にマーケティング/デジタル/リーダーシップ分野で「海外で学ぶ」需要が高まり、留学は単なる語学・文化研修ではなく、「グローバル人材育成」「視野変革」「マーケティング競争力の強化」につながる手段として再評価されました。
では、従来の人材育成とは何が違うのか。
従来と「越境リスキリング」の違い
これまでの日本の人材育成では、OJTや実務など社内での学びが重視される傾向にありました。この背景として、一つの領域の専門性の高さが日本企業の強みとしてあったので、人材育成方針でも重視されていました。
一方、越境リスキリングは枠組みを越えて、新しい環境に身を置き学びます。
そこでは自分の価値観を再認識する、内省的な学びが得られ、その環境で自分の役割に慣れていくのではなく、海外だからこその違和感や葛藤を経験することで、新しい知識の探求へつながると期待されています。
こうした背景を受けて、海外学習支援制度を持つ企業が増え、たとえば「社員の短期海外研修を休職扱いでサポート」「留学後のキャリア再配置(海外拠点やマーケティング部門)」など、人的資本の制度が見直されています。
では、マーケティング視点では、このような流れをどう捉えているのでしょうか。
6.マーケティング視点でみるリスキリング留学の価値

「Upgrade Your Career」型のメッセージがマーケティングの主流に
以前は、「語学を学び海外経験を積む」ことが主な訴求でしたが、今では「キャリアを再設計する」、「グローバル視野を手に入れる」、「マーケターとしての差別化を図る」といったメッセージが前面に出ているADやコピーも多く目にするようになったと、エージェントから聞きました。
リスキリングの目的が「語学力」から「実務スキル+ビジネス視野の拡張」へシフトしていくのに伴い、「何を学ぶか」より「誰になるか/何が変わるか」という視点にプロモーションも変わってきている。
留学エージェント各社も、新たな支援制度やコースを準備
大手留学エージェントでも「Digital Marketing × English」コースが急増し、グローバルな職場で通用する英語力を身につけたい、職場で流暢な英語を使いたい30歳以上の社会人のためにデザインされたビジネス英語30+コース「English for Business 30+」など、短期留学パッケージが定番化しつつあるのだそう。
B2CからB2B(企業研修・人的資本投資)へと市場が拡張するのに伴い、学習成果の可視化(デジタル証明書/AIポートフォリオ)など、企業や社会人のニーズに合わせた学びの環境作りを進めています。
7.スキルではなく、視野を再設計する

私は日々業務でAIを活用していますが、AI活用が浸透するにつれ人に求められるのは、そこに意味を見出す力なのだと感じています。今回の学び直しは、多様な文化の中に自分を置くことで、スキルを増やすだけでは届かない「世界の見え方」を更新してくれました。
留学で得たものは、英語のスキルよりも、異なる文化や環境を翻訳して自分の言葉で伝えて相手と対話する力。まだまだ力不足で道半ばな私の旅ですが、これからも学んでいきたいと思います。
大人のリスキリングとは、
"できること"を増やすのではなく、"見える世界"を広げること。
こうして、マルタ空の下で人生の中盤を迎えた大人たちは、新しいスキルよりも、新しい視点を手に入れていました。
最後に、長期でお休みを取らせていただけて、会社関係者のみなさまの懐の深さに感謝の気持ちで一杯です。貴重な機会をありがとうございました。
参考文献:
経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援」(2024)、リクルートワークス研究所「社会人学び直し白書」(2024)、JAOS 海外留学実態調査(2023)、OECD / Eurostat 各種統計(成人学習率 ほか)、EF / EC 年次レポート(コース傾向・メッセージ変化)
※一部データは該当年次レポートをもとに2025年10月にライターが編集・再掲。最新値は各機関の公表値をご確認ください。
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