ヨリミル
チームビルディング

営業チームの四隅を押さえる──仕組みづくりで"属人化の壁"を超えた話

高村 和人

高村 和人

2025/06/18
営業チームの四隅を押さえる──仕組みづくりで

「凄腕営業や敏腕ディレクターって、属人的で個人商店みたいだよね。」

日々の業務のなかで、何度そう感じたか分かりません。 同じサービスを売っていても、成果が出る人と出ない人がいる。 その違いがどこにあるのか、どうすれば再現できるのか。

私たちマーケティングチームは、営業的な動きも多いですが、そんな問いをきっかけに、営業成果を「仕組み」で支える取り組みを始めました。 そして、ある一冊の本をヒントに、オセロの四隅を押さえるように、チームづくりの"土台"から整えていく方針を立てました。

参考文献

高橋浩一(2021)『無敗営業 チーム戦略 オンラインとリアル、ハイブリッドで勝つ』日経BP社 

 

背景とチームの状態(Before)

当時の私たちの営業チームは、6名の小規模なチームでした。

若手から中堅までバランスよく在籍していて、それぞれが自分の裁量で動いている、いわゆる「自走できるメンバー」が集まっていました。teamsでのやりとりも活発で、毎朝の朝会では「どんな商談があるのか」「どう攻めるつもりか」なんて話も自然と共有されていました。提案前には「ちょっとロープレお願い!」と声がかかり、相手役になってフィードバックし合う、みたいな文化もあって。

雰囲気としては悪くなかったんです。むしろ、チームとしてはすごく健全だったと思います。

でも、あるとき気づいたんですよね。「これ、全部"雰囲気"で回ってるな」と。言い換えれば、"型"がなかった。誰かが成果を出しても、「なぜそうなったか」は口頭の報告で終わってしまう。

似たような案件があっても、「あの時と同じようにやってみよう」という再現の仕組みがない。それに、新しく入ってきたメンバーにとっては「なにをどう真似したらいいか」が見えづらかったと思います。

CRMにはHubSpotを導入していたんですが、運用の仕方も人によってバラバラでした。記録の精度や粒度も違うし、「この人の記録は参考になるけど、この人のはちょっと...」みたいなムラもあって。結局、ツールがあっても「チームとして一貫した営業のやり方」は存在していなかったんです。

仕組みづくりの4本柱(オセロの四隅)

営業チームの仕組みづくりに取り組み始めた当初は、正直どこから手をつけていいか迷っていました。

「勝ちパターンを共有しよう」「HubSpotをもっと活用しよう」──そんな定番の言葉は浮かんでくるけれど、それを動かす"土台の部分"がなんとなく整っていない感覚があったんです。

そんな時に出会ったのが、高橋浩一さんの『無敗営業 チーム戦略』という本でした。その中に出てくる「オセロの四隅を押さえる」という言葉が、とても印象に残りました。

どれだけたくさんのマスを取っても、四隅が押さえられていなければ、すぐにひっくり返されてしまう。この言葉に、ハッとさせられました。

手数やノウハウを増やすことよりも、まずは"ひっくり返されない基盤"をつくらないと──そう気づいてから、私たちは営業チームの「四隅」を意識して整えていくことにしました。

1. 「勝ちパターン」を記録する

まず最初に始めたのは、受注できた理由やその背景を、記憶や個人の中だけに閉じ込めないことでした。それまでも、受注報告はありました。でも「なぜ受注につながったのか?」というような本質的な振り返りは、あまり共有されていませんでした。

そこで、HubSpotの取引画面にあるメモ欄に、商談の背景や相手の反応、自分が工夫したことなどを、短くてもいいので記録していくようにしました。最初は「これ、書いたほうがいいんですか?」という空気もありましたが、過去の商談を見返せる便利さに気づいてからは、自然と浸透していきました。

「これ、どっかに残してなかったっけ?」「うん、Hubにメモしてあるよ」

──そんな会話がチーム内で自然に交わされるようになった頃には、チームのナレッジが少しずつ積み上がってきている実感がありました。

2. 営業フェーズを定義し、見える化する

次に取り組んだのは、「いまこの案件はどこまで進んでいるのか?」を、チーム全員が同じ認識で捉えられるようにすることでした。

以前は、「提案中」「検討中」「調整中」といったフェーズの定義が曖昧で、人によって判断基準がまちまちでした。

そこで、営業プロセスを8フェーズに整理し、それぞれのフェーズに"明確な条件"を紐づけて定義しました。たとえば、「提案済み」というフェーズなら、"提案書を送付して、金額の話もしている状態"というように、具体的な進捗で切るようにしました。

この整理のおかげで、会議でも、「この案件の現状って、何がボトルネック?」という話が、ズレなくできるようになりました。

3. ロープレを「仕組み」として整える

ロールプレイングは、以前からやってはいましたが、どうしても"やる人次第"になってしまっていました。そこで、ただやるのではなく、「このフェーズのロープレをやろう」と目的をはっきりさせるようにしました。

たとえば、「初回ヒアリングの切り出し」だけを練習する日もあれば、「最後のクロージングだけをやってみよう」という回も。場面ごとにテーマを決めることで、練習の精度も上がっていきました。

特に良かったロープレは録画してアーカイブしておくことで、「あの人のやつ、参考になりますね」と新人が自分から見に行ってくれるようにもなりました。こうした動きが自然と出てきた時、ようやく"チームとして学ぶ"雰囲気が育ってきたと感じました。

4.チーム内の「相談しやすさ」を整える

最後に意識して取り組んだのが、チームの空気づくりでした。

報告や共有はできていても、「実はちょっと詰まっているんです」といったような小さな相談が、なかなか出てこない雰囲気がありました。そこで、Teamsでのやりとりを通じて、日々のちょっとした壁打ちや相談も気軽に投げられるような空気感を意識しました。

「今こんな案件やってるんだけど、ちょっと相談いい?」というやりとりが自然とできるようになってくると、お互いの距離感もぐっと近づいた気がします。さらに朝会では、雑談やチェックインを共有する時間を設けたことで、メンバーの動きが少しずつ見えるようになってきました。

「一人で抱えこまずに、相談したほうが早い」そんな意識が少しずつチームに広がってきたことを実感しています。

変化と実感(After)

取り組みを始めてから、すぐに劇的な成果が出たわけではありません。

ただ、毎週、毎月と少しずつ積み重ねていくなかで、確かな変化を感じる場面が増えてきました。まず一番感じたのは、商談の「進め方」が、なんとなくではなく、共通の言語で語れるようになってきたことです。

「このフェーズに入ったら、〇〇の資料を出して、△△の話をしてみよう」「こないだ受注できたA社の進め方、似てるから参考にしてみようか」そんな会話が自然に交わされるようになってきて、これまで属人化していたノウハウが、チームのものになりつつある実感がありました。


また、商談が"チーム戦"になった感覚もあります。誰かが壁にぶつかっているときには、「ちょっと話そうか」と声がかかる。ロープレ動画を見て、「あの質問、使わせてもらったよ」と伝える。そんなやりとりのひとつひとつが、チームの温度を少しずつ上げてくれたように思います。

受注までのリードタイムが短くなったり、提案資料の質が上がってきたという成果もありましたが、それ以上に、「お互いの動きが見えていて、同じ方向を向いている」という感覚が、何よりの変化でした。


これからに向けて

もちろん、すべてがうまくいったわけではなく、試行錯誤の中でうまく機能しなかった仕組みや、思うように浸透しなかった施策もありました。
それでも、「仕組みで支える営業チームをつくりたい」という想いを持ち続けたことで、少しずつ前に進めたように思います。

これからも、それぞれの現場に合った「らしい」チームづくりに、一緒に取り組んでいけたら嬉しく思います。

  • X
  • facebook
高村 和人

この記事を書いた人

高村 和人

デジタルマーケティング事業本部/ストラテジックマーケティング部/マーケティングプランナー

ヨリミルに関わるマーケティング戦略の立案から実行までを担当。京都のIT企業で新しいマーケティングの形を模索しながら、お客様視点を大切に、クライアントの成長を全力でサポートしています。

ページトップへ