無印・IKEA・スタバに学ぶ「やさしさ設計」。デジタル疲れの時代に、ブランドは何を語るべきか【事例7選】
情報洪水のノイズを超える「やさしさ設計」
SNSを開けば、声・動画・広告が次々と流れ込んできます。
そんな中で、ふと心が止まる 静かな投稿に出会うことがあります。
過剰な訴求でも、流行語でもない。
ただまっすぐに語りかける文章や、光の少ない写真が、そっと心を緩めてくれる。
いま「やさしい発信」は、共感を超えて
世界観そのものをデザインする発想として注目されています。
なぜ今、このトーンが求められているのでしょうか。
数字で見る「デジタル疲れ」の実態

DataReportal「Digital 2025」によると、世界のSNS利用者は53億人を突破。
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1日の平均SNS利用時間:2時間28分
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58%が「情報量にストレスを感じる」
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41%が「SNSの一時休止を経験」
疲れているのは発信側ではなく、受け止める心のほう。
いま人々は「知りたい」よりも「休みたい」気持ちが強くなっています。
近年のコミュニケーション研究でも、企業的な硬いトーンより、人間的で穏やかな語り口のほうが信頼や満足度を高めやすいことが明らかになっています(2024年調査)。
こうした背景から、ブランドは伝える量ではなく伝え方の温度を見直し始めています。
最近、急成長しているブランドほど、説明ではなく、ブランドの芯(パーパス)を UIデザインで翻訳している特徴がみられます。ここでいうパーパスとは、スローガンではなく「このブランドは何のために存在するのか」という価値基準。
そしてその価値観を支えるのがブランドの語彙(ボキャブラリー)です。
形容詞の選び方、写真の色味、余白のとり方...
それらすべてが、ブランドの世界の見方を表しています。
強いブランドほど、語彙がUI・コピー・写真にまで一貫して滲み、
そこに 静かだけど揺るがない強さが宿ります。
では、実際にどんなブランドが「静かな強さ」を UIで体現しているのでしょうか。
やさしさを設計するブランドたち(7つのケース)
Case1:無印良品|「感じ良い暮らしを。」に宿る余白

白・ベージュ・生成り。無印良品サイトのデザインは余白が多く、語りすぎないからこそ想像が広がる。この 語らない勇気 が、そのままやさしさにつながっています。
社長メッセージにも、その価値観が美しく表現されています。
「簡素の中の知性や感性が誇りになる世界へ」
「大切な人と大切なことをいたわる時間を大事にできる社会へ」
私には夢が2つあります。それは、簡素が豪華に引け目を取る事なく、その簡素の中に秘めた知性や感性がむしろ誇りに思えるような世界になること、従業員が大事な人と、大事なことをいたわる事のできる個人の時間をきちんと確保し、働く場所がわくわく感とプライドに満ち溢れたものにすることです。これらの夢を胸に、暮らしを営むすべての皆さまと、世界中で成長に挑戦するすべての従業員とともに、当社は「感じ良い暮らしと社会」の実現に向けて進んでまいります。
出典:「無印良品」企業サイト代表取締役社長のトップメッセージより引用
コーポレート・製品設計・UI・写真・言葉まで、一本の価値観で結ばれたブランドです。
Case2:IKEA|「問いかけ」で伝える北欧の静けさ

「毎日をよりサステナブルに」、「小さなアイデアで、サステナブルな毎日を送りませんか?」
北欧のコピーは命令ではなく問いかけ。IKEAサイトのUIも、強制ではなくそっと選択肢を示すデザインが特徴です。押しつけず、生活者に委ねる語り口。これが北欧ブランド特有の静かな意思として表れています。
Case3:スターバックス|「人にやさしい時間設計」が滲むUI

家、学校や職場以外の第三の心地よい居場所「サードプレイス」の精神をデジタルにもシームレスに翻訳しています。スターバックスのサイトでも、余白をたっぷり活かしたデザイン・動線・文量は控えめでブランドの姿勢が自然と伝わるUIになっています。
人の時間を尊重するパーパスがサイトに反映されていること。
選ばせるのではなく、生活シーンをそっと提案するのがスターバックスらしさです。
季節限定の特別なコーヒーや、オリジナルマグカップなど大切な人との心温まる時間を提案し、ユーザーの暮らしに沿うスタイルは「急がなくていいよ」というブランドの声が自然と伝わってきます。
Case4:サイボウズ note|「従業員の声」でつながるBtoB

BtoB領域でも、温度を持った言葉が支持されています。
サイボウズのnoteは、社員の視点や感情を丁寧にすくい取る発信が中心。BtoBであっても、数字より人の温度を伝えることで読者の中にリアルな信頼を育てています。
Case5:Ethical Bamboo|世界観の統一で語るやさしさ

竹素材のD2Cブランド Ethical Bambooは、生活者のペースに寄り添う静かな世界観が心地よいブランドです。パーパスは、
「自然素材で、心と身体が軽くなる選択肢をつくる」。
出典:Ethical Bamboo ブランドステートメント
環境のために頑張るのではなく、気持ちよさを選ぶだけでいいという思想が、
力の入りすぎないコピー、押しつけない訴求、選びやすさを優先したUIとして、ブランド全体に一貫して表れています。
Case6: earth music&ecology|「やわらかい暮らし」のUI翻訳

ブランド名にエコロジーと入っていても、ECサイトではそれを前面に打ち出していません。押しつけず、できることから始めようという等身大の姿勢が支持されています。
自然光の写真、丸みのあるフォント、軽やかなページ構造。
すべてが「やわらかい暮らし」をUIで表し、ユーザーに「自然体でいいんだ」と伝わる設計となっています。ブランドのパーパスは
「地球にも人にもやさしいファッションを、身近に」。
出典:earth music&ecology Sustainability Policy
コピーも「自然体をたのしむ服」、「ちょっといい選択が、今日を軽くする」など、できることからはじめようという等身大の姿勢が、Z世代・ミレニアル世代に支持される理由です。
Case7:星野リゾート|ブランドの哲学(旅は魔法)を、体験として編んだ UI

星野リゾートのサイトは、地域の季節や文化を丁寧に紹介するビジュアルで、宿を紹介する前に 地域の物語 をそっと差し出します。
写真・コピー・動線が「旅のジャーニー」として構成されており、旅人が土地と自然につながる時間をつくるという静かな思想がUI全体に滲んでいます。ご当地サポーターが語るコンテンツにもその土地らしさのストーリーが紹介されています。

施設の魅力を並べるのではなく、地域の息づかい → 体験 → 宿泊
という順番で案内していく構造は、星野リゾートが大切にしてきた「旅は、人と地域をつなぐ小さな対話である」という想いの翻訳そのもの。派手ではないけれど、旅人のペースに寄り添う静かなUI がブランドの思想を雄弁に語っています。
やさしさはブランディングになる
7つの事例に共通するのは、パーパス → デザイン → 体験 が一直線につながっている点。
伝えすぎない
余白を残す
強制しない
人のペースを尊重する
情報があふれる時代ほど、ブランドはやさしさのデザインを求め、感情論ではなく 設計思想 を活かしています。(※デザイン思考については詳しい解説コラムがありますので、こちらもご覧ください)
では、具体的にどの視点で自社サイトに取り入れてみるとよいでしょうか。
静かな発信を支える3つの視点
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ノイズレスデザイン
余白・彩度・フォント設計が「信頼のトーン」をつくる -
トーン&マナーの一貫性
どのチャネルでも同じ人格で語る -
言葉の余白
「〜しよう」より「〜してみませんか?」
言い切らないことで、共感ではなく"思考"を生む
まずは、この3つを意識してデザインUIやコピーにブランドの世界観を滲ませてみてはいかがでしょうか?
SNSは広告より「考え方」を売る時代へ
SNSは、販促の場ではなくブランド思想を翻訳するインターフェースになりました。
ヨーロッパでは「語らない広告」が増え、国によってサインが異なります。
ドイツは「誠実さ」、フランスは「美」、北欧は「社会性」、日本は「安心」。
違いを知ることは、伝え方を選ぶこと。静かで誠実でやさしいブランドほど、情報過多の時代に圧倒的な存在感を放つのです。
やさしさは、最も人間的な戦略に
AIが正確に、アルゴリズムが速くなるほど、人は静かであたたかい声に惹かれていく。
非効率に見えても、誰かの心拍を少し整えるようなUIやコピーこそ記憶に残るコミュニケーションになります。静けさとやさしさをどうデザインするか。それが、これからのブランド戦略の核になっていのではないかと感じました。
<参考文献・データ出典>
DataReportal「Digital 2025」(We Are Social & Meltwater, 2025)
Statista「Digital Wellness Survey 2024」、Adobe「Digital Trends 2025」
Nielsen「Emotional Resonance in Advertising 2024」
無印良品、IKEA、星野リゾート 各公式サイト
Ethical Bamboo、earth music&ecologyECサイト、サイボウズnote
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