前編|文字に宿る、ブランドの声。モリサワに聞く書体開発の現場
フォントは単なる文字の形ではありません。
企業の印象やメッセージの伝わり方を左右する、重要なデザイン要素です。
「デザインはフォントで決まる」と言われるほど、その選択は、ブランドの表現に大きな影響を与えます。
では、デジタル時代の今。フォントの未来は、どのように紡がれていくのでしょうか。
その答えを探しに、日本最大のフォントメーカー、モリサワ本社を訪ねました。
今回お話を伺ったのは、デザイン企画課で書体開発プロジェクトの企画・進行管理を担当する高木美南さんです。UDフォント、オリジナルフォント、コーポレートフォント、Webフォント。導入事例とともに、その魅力に迫ります。
◎この記事のポイント
・フォントは企業の「顔」であり「声」にもなる
・オリジナルフォントはブランドの印象を形づくる
・書体開発はリサーチから製品化まで6つの工程で進む
・フォントは社内外のコミュニケーションにも影響する
フォント開発の仕事に出会うまで
ーー フォントと出会うまでの道のりを伺いました。まずは高木さんについて教えてください。

今振り返ると、とても不思議な偶然が重なっていたと感じています。
小さい頃から新聞の見出し文字を写してレタリングするのが好きで、家ではワープロソフトに触れ、高校では書道部に所属するなど、文字に触れる楽しさを感じてきました。大学ではデザイン系と情報工学系、プログラミングなどを学び、2社目で今の仕事に就きました。
現在はデザイナーやエンジニアなど多くのメンバーと関わりながら書体開発プロジェクトを進行しています。オリジナルフォント開発ではクライアントとの窓口も担い、開発全体を取りまとめています。
ブランドの魅力を最大限に引き出すフォントの力とは?
ーーフォントがブランドの「声」になる、とはどういった意味なのでしょうか。CIやマーケティングの視点もふまえて教えてください。
フォントは、声や表情、時にはキャラクター性も持っています。まずは「顔」と「声」という言葉の意味からお話しします。
- 「顔」は、象徴となるビジュアル的なシンボル
- 「声」は、雰囲気や感情、トーンなど、数値化できない要素も含むもの
その違いを意識して、「顔」と「声」という言葉で表現しました。
オリジナルフォントが様々な場面で使われることで、フォントを通じて会社のイメージの基盤が形づくられていきます。
そして「この会社といえばこの文字」という状態になると、そのフォントが企業の"顔"となり、"声"としてメッセージを発信していきます。それが人々の記憶に刻まれ、ブランドの印象として残っていくのです。
また、コーポレートフォントは社外だけでなく、社内のインナーブランディングにも役立つと感じています。「自分たちの文字」として使うことで、働く人の会社やブランドへの愛着にもつながっていくのではないかと思います。
ーー では実際に、企業の"らしさ"は、書体開発のどの瞬間に見えてきますか?
フォントに落とし込むプロセスや現場で大切にしていることはありますか。

私はリサーチャーとしてコンセプト設計を行い、企画の発案と進行管理を担当しています。
そのコンセプトを基にデザイナーが文字を形にし、エンジニアがフォントとして完成させます。
モリサワフォントができるまでには、主に6つの工程があります。順に説明しますね。
Step1 リサーチ
書体開発はリサーチから始まります。
私たちは共通のコンセプトによってつくられた文字の集まりを「書体」と総称し、デジタル化した書体を「フォント」と区別しています。
街を歩きながらアイデアのヒントを探します。
気になる看板やパッケージを撮影してストックしたり、WebサイトのUIデザインを参考に書体の使い方や流行を把握します。
休日には書店で本のグラフィックと書体のバランスを眺めるなど、日々アンテナを張りながら幅広くインプットしています。
このように、すでに世にある書体では応えきれていないニーズがないか分析し、時には昔の活字から着想を得ることもありますよ。
オリジナルフォントの場合は、まずクライアントの課題をヒアリングします。
Step2 企画
ここからチームで進めていきます。フォントは文字デザインだけでは完成しません。
プログラムとして機能させるため、多くの情報を設定します。
たとえば、ひとつの部首を修正すれば関連する全ての文字に影響します。そのため、開発が進んでから後戻りすることがないよう、企画やコンセプトに無理がないか慎重に検討します。また、本の表紙や商品パッケージなどコンセプトにあうグラフィックと組み合わせてみて、実際に使われたときの印象も確認します。
企画会議では
- デザインの方向性
- 利用シーン
- 文字セット
- ウエイト(太さ)
- OpenType機能
など細かく仕様を決めていきます。
Step3 デザイン設計
基本的には一人のデザイナーが中心となり、線画と黒塗りを切り替えながら文字の形を作っていきます。
最初からすべての文字を作るわけではありません。まずは基準となるモデル文字を制作します。
漢字やカナなど約400文字を抽出し、縦線・横線・点・はね・はらいなどの細部を調整しながら、統一性のあるデザインを作っていきます。
ちなみに和文フォントは、どれくらいの文字数が必要だと思いますか?
ーー 漢字・かな・カタカナ・アルファベットなど、かなり多そうですね。
小さなセットでも3,800文字以上、大きなセットでは20,000文字以上になります。
Step4 文字拡張
ここではそのフォントセットに必要な全ての文字を制作します。
ここが最も時間がかかる工程ですが、多人数で作れば速いというわけではありません。
読みやすさやコンセプトとの整合性を確認しながら作るため、2〜3人のデザイナーで進めます。少人数で議論を重ねながら、一文字ずつ丁寧に作っていきます。
ーー これだけの数を複数人で作るとなると、意見が分かれることはありませんか?

そういう時は、すぐにチームで話し合います。
デザインには絶対的な正解がありませんが、統一感を損なわないよう、イメージやニュアンスを言葉にして共有します。
オリジナルフォントでは、クライアント、デザイナー、エンジニアなど多くの関係者と協力します。
そのため、イメージを言語化する力と、密なコミュニケーションが重要になります。複数案を提示してイメージに近い方をクライアントに選んでもらうなど、認識のずれを防ぐ工夫も行っています。
もしイメージがずれた場合は、すぐコンセプトに立ち返ります。
コンセプトはプロジェクト全体の共通言語であり、本質を見失わないための「軸」になります。
それらがつながったとき、企業の"らしさ"が形になっていきます。
Step5 検査
実際に文字を使う場面を想像してみてください。熟語や文章など、文字は組み合わせて使われますよね。
検査の工程では、文字同士の組み合わせによって詰まりすぎて読みにくくなっていないか、デザインに違和感がないか、ズレが出ていないかなどを確認します。フォントもパソコンのモニターだけで使われるものではありません。紙に印刷して、一文字ずつ確認しながら、修正と改善を繰り返していきます。
ーー「読みやすさ」「使いやすさ」を徹底的に検証しているのですね。
そうですね。「とにかく、よく見ること」
これは、モリサワが文字と向き合うときに、昔から変わらず大切にしていることなんです。
Step6 製品化
最後はエンジニアチームの出番です。
製品化の工程では、エンジニアがさまざまなファイルを統合し、フォントとして完成させます。
実際に使うアプリケーションでの表示確認や、コンセプトに沿った機能の実装など、きちんと使えるフォントに仕上げるためのプログラミングを行います。エンジニアは、フォント全体を支える縁の下の力持ちのような存在なのですよ。
ーー 一般的な製品開発と同じように、すべての工程に緻密な作業が積み重ねられていることがわかりました。
まさに職人の技ですが、どのように培われていくでしょうか?

実は、私はこの春でリサーチャーとして4年目になります。まだ勉強中ではありますが、先輩にも相談しながら、大切な判断や優先順位を決められるよう成長していきたいと思っています。
ちなみに、ひとつのフォントをリリースするまで、どれくらいの期間がかかると思いますか?
ーー かなり長い年月がかかりそうですね。
文字セットや文字数にもよりますが、短いもので2年ほど、長いものでは5年以上かかることもあります。
私が入社した頃に開発がスタートしたフォントも、ようやくリリースを迎えるというくらいですね。
こうして複数のプロジェクトが並行して進み、毎年新しいフォントが誕生しています。
<オリジナルフォント企業事例4選>
ーー オリジナルフォントを導入すると、ブランドにはどのような影響があるのでしょうか。実際の事例を教えてください。
特定の企業やプロジェクトのためにデザインされるオリジナルフォントには、企業の想いを形にし、届ける役割があります。実際にどのように使われているのか、ここからは、モリサワ公式noteから引用を元にみていきます。
事例1:ブランディングの事例〜歴史ある野球大会で使われる「スコアボードのフォント」

引用元:『甲子園フォント』が生まれるまで (モリサワ公式noteより画像を引用)
事例2:ユニバーサルデザイン〜大阪・関西万博の「館内案内表示フォント」

引用元: フォントで見る大阪・関西万博(モリサワ公式noteより画像を引用)
事例3:ファンづくり〜おなじみ食品メーカーの「ブランドフォント」

引用元: 「味ぽんフォント」で広がる新しいコミュニケーションのカタチ (モリサワ公式noteより画像を引用)
事例4:WEBサイト〜アパレルメーカーの「フォント設計」

引用元:フォントが接客における「声」の役割を果たす (モリサワ公式noteより画像を引用)
ーーなるほど。オリジナルフォントやコーポレートフォントは、ブランドの象徴としてだけでなく、読みやすさや活用の広がりといった面でも企業のコミュニケーションを支えているのですね。
失敗しない!フォントの選び方
ーー マーケッターやWeb制作の現場では、フォント選びが重要です。何を基準に選ぶと良いでしょうか? 迷ったときのヒントを教えて下さい。
ぜひ、さまざまなフォントを見て、楽しみながら選んでください。
マーケッターやWeb制作の現場では、フォント選びが重要になります。数ある中で、何を基準に選べばよいのでしょうか?
『Morisawa Fonts 書体見本帳』では、Morisawa Fontsの書体ライブラリ3,500書体以上の中から直感的に選ぶことができます。
「つくりたい表現で探す」カテゴリでは、「かわいい」「楽しい」「レトロ」「物語性」など、表現したい作風やイメージに合わせて、11種類のキーワードからフォントが探せます。
Webであれば「おすすめフォントリスト」から自由にお試しできますよ。
ーー ちょうどチラシを作るので、今から書体を探してみます!

ーー 感覚でフォントが探せるのですね。
こちらの分類は、書体が使われる場面で表現したい世界観に一歩近づけるための提案をしたいという考えから実現しました。
書体を体系的に分類するうえではスタイルや系譜も重要ですが、この見本帳ではメーカー視点ではなく、なるべくユーザー目線に近い柔軟な分類が心がけられています。
書体見本帳をきっかけに、新しいフォントとの出会いや、新たな創作につながれば幸いです。

写真左)2022年から毎年発行している『Morisawa Fonts 書体見本帳』
写真右)高木さんのお気に入りフォントを聞いてみました!かわいい系ですね笑
よくある質問(FAQ)
(※本文の内容をもとに、質問形式で簡単にまとめました。)
Q. フォントはブランドにどのような影響を与えますか?
A. フォントは企業の印象やメッセージの伝わり方を左右し、「顔」や「声」としてブランドの記憶に残っていきます。
Q. オリジナルフォントとは何ですか?
A. 特定の企業やプロジェクトのために設計されるフォントで、その企業らしさや想いを形にする役割があります。
Q. フォント開発にはどれくらいの期間がかかりますか?
A. 文字数や仕様によりますが、短いもので約2年、長いものでは5年以上かかることもあります。
ーー 後編では、フォントがどのように生まれ、受け継がれてきたのか。その背景にある歴史と思想をたどります。
モリサワについて
株式会社モリサワは、「文字を通じて社会に貢献する」を社是に研究・開発を続けるフォントメーカーです。クラウド型フォントサブスクリプションサービス「Morisawa Fonts」をはじめ、ユニバーサルデザイン(UD)フォントが使える「MORISAWA BIZ+」、機器への組込みフォントなど、利用環境に合わせたフォントサービスを提供しています。コーポレートフォントや製品サービス向けの専用フォントなど包括的な利用の提案も行っています。
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